就職活動の面接では面接官から色々な質問をされますが、その中で「あなたは、尊敬する人物はいますか」や「あなたにとって、尊敬する人物とは誰でしょうか」という類のことを尋ねられることがあります。こういった時、あなたはすぐに答えることができるでしょうか。
急にそのようなことを訊かれると、なかなか即答するのは難しいものでっす。焦って、思いついた人物をアドリブで答えたとしても、その面接において好ましいものであるとは限りません。そんなに偉大な人物を挙げる必要まではないにしても、その場にできるだけふさわしい答えを用意しておいて方が、気持ち的にも楽でしょう。
ここでは、面接官に好印象を持たれやすい答え方や適切な人物像について、解説していきます。
質問の意図と配慮
そもそも、面接官はなぜ「尊敬する人物」を聞こうとするのでしょうか。単なるアイスブレイク(緊張をときほぐすための手法)?それとも、新入社員が尊敬するような人を上司が目指すための参考?
もちろん、どちらでもありません。この質問にはきちんと理由があるのです。
価値観を知るため
面接官たちは、就職希望者の尊敬する人物自体を把握することを目的としているわけではありません。この質問の意図を一言で言うと、「就職希望者の価値観を知るため」なのです。
価値観は、挙げた人物を尊敬する「理由」に表れます。よって、この質問に対する答え次第で、「どこに価値を置いているのか」といったことを確認することができます。もし「スティーブ・ジョブズ」と答えたのならば、「行動力」「反骨精神」「卓越した話術」といったところの価値に視点を置いているのだろうということが分かるでしょう。
つまり、ただ単に「尊敬する人物」を好奇心で聞いているといわけではなく、この質問をすることによって「価値をどこに見い出しているか」という部分を探ろうとしているのです。
企業側としても、社員の価値観というものは重要な要素となります。働く人たちの考え方を把握するための一手段として、このような質問をすることがあるわけです。
この質問自体がNG?
この「尊敬する人物はいますか」といった質問ですが、本当は面接時に応募者に質問するものとしては明確に「ふさわしくない」ものとされていることをご存知でしたか?
一般的にはあまり知られていない事実ですが、実際に厚生労働省の「公正な採用選考の基本」という項目にも明記されています。
『(3)採用選考時に配慮すべき事項』に記載されている<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>という箇所を見てみましょう。こちらに「尊敬する人物に関すること」と書かれています。つまり、応募者が「尊敬する人物」については「適性と能力に関係がなく、採用選考の材料として面接で尋ねることは、就職差別につながるおそれがある」としているのです。
“禁止”としているわけではないものの「配慮すべき事項」として書かれているため、OKかNGかと言ったら“NG”に当たるということになります。しかし、実際にこの質問を面接官がしたからと言って、具体的に何か罰則があるわけではありません。そもそも、このようなルールがあることを把握していない面接官もいると思います。よって、エントリーシートに「尊敬する人物」を記入する欄があったり、面接の際に故意がなく訊いてくる面接官もいることでしょう。
前述の「配慮すべき事項」を理由に、「そのご質問はふさわしくないはずです」と指摘することは可能ですが、その企業で働きたいと考えているならば、わざわざ突っつくのは最良の判断とは言えないと思います。許容範囲として、しっかり受け答えした方が好ましいのではないでしょうか。
「尊敬する人物」の挙げ方
さて、実際に「尊敬する人物」として挙げるべきなのは、どのような人なのでしょうか。
打算的に考えず、純粋に自分が尊敬する人を挙げるのも、素直な回答という意味では確かに正直で良いのかもしれません。それもまた「その人の価値観」として面接官も把握するでしょう。
つまり、誰を挙げたから正解、不正解といったものではありません。そもそも、人が誰を尊敬しようがその人の自由であり、それによって人を安易に判断するのは先述した「就職差別につながる」ということになりかねません。
大切なのは「理由」
では、何が大切なのかと言うと、「尊敬する理由」が明確かつ説明がしっかりと行えるかどうかということなのです。誰を挙げようとも、その理由が「なんとなく」とか「直感的」とか「フィーリング」といった曖昧なものでは、「非論理的な性格」という印象を与えることになるでしょう。
働く上で「しっかりと相手に根拠を説明できる」というスキルは当然ながら重要な要素の一つですので、まずはこちらができなければ、価値観の判断以前の問題となってしまいます。そのため、「その人物を尊敬する理由や根拠」はきちんと回答できるようにしておいてください。
もちろん、この「理由」についても、正解、不正解といったものはありません。その場の面接官によって受け取り方は違うので、「どんな理由で誰を挙げたから正解!」というわけではないのです。
よって基本的な考え方としては、本当に自分が尊敬する人物と、その理由を明確に答えることができれば良いということになります。
しかし、その中でも「好ましい人物像」というのがあるのは確かでしょう。そのあたりについても、これから解説していきます。
「両親」はハードルが高い
その場において、応募者自身しか知らない人物を挙げても、面接官には伝わりづらいでしょう。やはり、一般的に名が知られている人物である方が誰もがイメージしやすく、理由に対しても納得がしやすいと言えます。
これらのことから、よく思い浮かべがちな「両親」は、かなり難易度が高いということになります。
実際、本当に両親を尊敬している人も数多くいると思います。しかし、両親がどんなに素晴らしい人であったとしても、当然ながら面接官はその両親を知りません。
また、先述したようにこの質問の意図は「価値観を知ること」です。尊敬する人物に両親を挙げる場合でありがちな理由が「私をここまでしっかりと育ててくれた」や「親として在りながらも、仕事も立派にこなしている」といったもになりますが、これらは「当たり前」のことなのです。つまり「一般的な当然の理由」なので、面接官に自分の価値観は伝わりません。
さらに、家族以外の他人を挙げられないこと自体を「幼稚」だと捉える面接官もいます。
このようなことから、両親を挙げる場合はかなりハードルが高いため、本当に尊敬しているとしてもあくまでも「面接として」と割り切って、別の人物を挙げた方が無難であると言えるでしょう。
同性の方がより良い
自分が男性なら尊敬する人物も男性、女性なら女性と、同性を挙げた方が分かりやすいでしょう。
異性がNGということではありませんが、やはり「価値観」において考え方や行動面をイメージする際、同性の方が明瞭さが上がります。
職種に合致している
自分が応募した職種に合っている人物像の方が、より好ましいと言えます。
例えばCAに応募したのならば、女性らしさや優しさがあり、それでいて強さも兼ね備えているような女性を「尊敬する人物」として挙げましょう。イメージしやすいことはもちろん、「なぜ、この職種を選んだのか」という根拠としてリンクしやすく、納得感が出やすいということになります。
世間的に好感度が高い
当然ながら、誰にとっても比較的好感度が高い人物の方が好ましいです。
ただし、人の好みというものは個人差があるため、好き嫌いが思い切り分かれやすいような芸能人なのは避けた方が賢明だと言えます。もし、面接官がその芸能人に対してマイナスなイメージを強く持っていた場合は、この質問に対しての回答としても印象がマイナスになってしまうでしょう。
NGな返答パターン
上記では好ましい人物像について挙げてきましたが、逆に、避けた方が良いイメージや例についても紹介しておきましょう。
そこまで面接官の顔色を伺って「尊敬する人物」を作り出す必要はないにしても、「好ましくないパターン」はやはり存在します。
あくが強い人物
自己顕示欲がやたらと強い、協調性に欠ける、自己主張が強いといったイメージを持ちやすい人物は避けた方が良いでしょう。また、やたらと闘争心が強いタイプも、あまり好ましくないと言えます。
程良く「芯の強さ」や「勇気や根性」を持っている人物であれば問題ないのですが、あまり“あく”が強い人物を挙げると「扱いが大変そう」「面倒くさいことになりそう」といった印象を持たれかねません。
尊敬する人物は「特にいない」
真の意味で「尊敬している」という人物が、特にいないという人もいるかもしれません。
しかし、「誰も尊敬していない」ということは、言い換えれば「自分が一番」と思っていることになります。よって、「尊敬する人物は特にいません」と回答するのは「自分が一番なので、尊敬する人物など存在しません」と言っているのと同じなのです。
実際のところは「わざわざ誰か一人を挙げるほど、強い憧れを抱いている人物がいない」といった理由から、迷った結果として「特にいない」という答えになってしまう人もいるようですが、相手からしてみたら上記のように「傲慢な人」と映ってしまうのです。
また、傲慢と受け取られなかったとしても、少なくとも「世間を知らない勉強不足な人」という印象は確実に持たれてしまいます。謙虚な心を持ってしっかりと周りを見渡し、尊敬する人物を挙げられるようにしておきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。本来は素直に自分の考えを挙げるべき「尊敬する人物」について、普段はなかなかここまで客観的に考える場面もないと思います。
しかし、この質問に対する答えは、単に相手に自分の価値観を伝えるだけではなく、上手く自己PRに繋げていくこともできます。その人物を尊敬する理由とともに、それを基に行動して何か得られたり成長できたというエピソードも話すことで、より説得力が増し、積極性と自己研鑽をアピールすることができるのです。このように、少し返答に困るような質問であってもプラスに変えていっちゃいましょう!!