「覚書」という文書を知っていますか?
「覚書」は「おぼえがき」と読み、ビジネスにおける契約において用いられる文書ですが、「契約書」との違いがよく分からない人も多いのではないでしょうか。
普段はあまり詳細に知らなくても、昔から運営が回っている会社であれば、上司や先輩に引き継がれたり簡単に存在だけを教わったまま何となく取り扱っていて支障なく業務を進められることが多いので、特に深く追究していない…という社会人の方もいるかと思います。
そこで今回は、覚書を中心に、契約書や念書などそれぞれの違いについて解説していきましょう。
これをしっかりと学ぶことで、後輩にも自信をもって説明することができるはずです!
覚書とは
契約締結における当事者同士の合意を得るための文書を「覚書」と言い、証拠や証跡を確認することができる法的効力のある文書です。
それでは概要から、詳しく解説していきます。
概要
まずは、覚書の概要について説明しましょう。
覚書とは、既存の契約書について補足する、あるいは変更点を明記する文書のことを指します。
※ただし、「覚書」という文書名であるものの、その実態が契約書の役割を果たしている(基本条項を記している)文書の場合は、事実上は「契約書」として扱われます。
また、本来の契約関係ではない者同士が、ある事柄について別途取り決めをして一部締結する契約内容を記した文書を「覚書」として取り扱うこともあります。
「契約書」と見聞きすると、お堅く重責な効力を持つ文書という印象がありますが、その印象を少しでも緩和し、比較的ソフトな心持ちで契約を取り交わす手段として、「覚書」という文書を作成することがあります。
しかし、あくまでも法的な効力については契約書と同等となっています。よって、書名はもちろん、厳密な用途や内容のボリュームに違いはあっても、実質的には契約書も覚書も同列にあると言えるのです。そのため、効力を発生させるには契約書と同様に、署名・捺印や記名・捺印、契約締結日などの処理が必要となっています。
成り立ちと用途
「覚書」という名称からも分かるように、そもそもは「忘れてはならないこと」を文字に起こして残しておくための書面として使用する文書となっていました。
その後、時代の流れと共に、ビジネスや政治的な場面で、契約書上においては明記されていないことを追加で取り交わしたり変更点について合意を得たことを後々失念してしまうことがないように残しておくための文書という位置づけで使用されるようになりました。
よって、文書としてしっかりと明記されてあるものの、署名や捺印がされていないものについては実質的に効力が薄くなってしまいます。
とはいえ、口約束であっても契約は成立するということが法的に認められていることもあり、覚書をもって交わされた契約自体が全くの無効となるわけではありません。
ただし、基本となる契約内容が網羅され明記されている契約書と比較すると、覚書は「付随文書」のような立ち位置にいることが多いので、契約書よりも効力が薄くなってしまうことがあるのです。
しかし、契約書を補足する正式な文書であることに変わりなく、効果的に活用することが可能です。
契約書は当事者同士による署名・捺印、割印という所定の手順によって作成される重責を担う文書ですが、その分、契約の中途で一部変更や追加事項などがあった場合、契約書自体を再作成・再締結するのでは、かなりの手間がかかってしまいます。
そのような場面において、補足事項や変更事項に関して覚書として作成し、その内容について合意・締結をすることで、ベースとなる契約内容を前提としておきつつ、簡易的な手続きによって対応することができるのです。
効力と注意点
前述したように、覚書は契約書と同等の法的効力を持ち、補足文書として以下の役割を果たします。
- 正式契約前に、当事者同士で別途合意した事項を確認する場合
- 正式契約締結後、基本の条文において解釈に不明瞭な点が発生した場合に明確化する
- 一部金額や日付の見直しなど、契約そのものの重要部分でない箇所の変更
なお、契約書と別々の書面で手続きをしていることにより、それぞれによる合意事項とみなすことができるため、内容の解除のあたっても別々に取り扱うことができます。
また、正式な法的効力を発生させるには、契約書と同様の手続きを行う必要があります。具体的には、以下の記載となります。
- 合意する内容
- 契約締結日
- 署名(または記名)および捺印
すべて重要ではありますが、効力発生の基となる契約締結日(契約日)を忘れないようにしましょう。ここが抜けると、実質的な法的効力が失われてしまうことに繋がります。また、捺印は認印または実印となります。シャチハタは不可ですので気をつけてください。
収入印紙
契約書と同等の効力を持つ覚書ですから、収入印紙についても同様に、金額が示された合意内容であれば課税対象となり収入印紙の貼付が必要とされています。他、注意事項も契約書と同じで、額についても覚書に明記されている金額によって決まってきます。
なお、本来は収入印紙が必要とされる覚書に収入印紙が貼られていなかった場合は脱税とみなされ、本来の3倍相当の金額を罰金として支払うことになってしまいます。くれぐれも気をつけましょう。
しかし、効力自体が無効となるわけでないので、納税と効力は別々に考えることを忘れないでください。
手続きについて
書式や形式については契約書と類似しており、覚書としての文書を2通作成した上でそれぞれに署名(または記名)および捺印をし、当事者それぞれが1通ずつ保管します。
文書に記載すべき事項は5つあり、文面における上から順に下記となっています。
- タイトル(「覚書」)の下にまず、「●●●(以下、甲と呼ぶ)と●●●(以下乙と呼ぶ)は、以下の事項に関して合意した。」といった文言
- 合意した内容の詳細
- 文章の締め括りとして「以上を合意した証として、本書面を2通作成し、甲乙署名捺印の上、各1通を所持する。」といった文言
- 契約締結日
- 契約における当事者それぞれの署名(または記名)および捺印、住所など
念書とは
覚書の他に、契約書に類似した文書で、ともすると混同されがちなのが「念書」というものです。
当事者の片方のみがもう一方の当事者に差し入れる文書を「念書」と言い、契約書や覚書と同様に証拠などを確認することができるものですが、内容があくまでも一方的であることが契約書や覚書と大きく異なる点となっています。
こちらについても、あわせて確認しておきましょう。
概要
文末が「~のため、本証を差し入れます」となっている、当事者が一方的に他方に差し入れる文書のことを「念書」と呼びます。
一方的ではあるものの、法律において必要とされる約束事を正式に文面化し、証拠・証跡として作成したものですので、契約書や覚書と同様に確かな「証明」として法的効力がある文書となっています。
手続きについて
法律における様々な内容を伴っている正式文書であり、やはりこちらについても規定に則って収入印紙が必要となります。
記載事項は表題や内容の他、以下の3つとなっています。
- 作成年月日
- 当事者一方の署名(または記名)および捺印、住所など
- 当事者他方の宛名
ワンポイントアドバイス
ここまで、覚書の概要や注意点、手続き、念書の概要などについて説明してきました。
これらの基本的な知識は以上となりますが、最後に、契約締結手続きにおける細かい部分のワンポイントアドバイスをしておきたいと思います。
ちょっと困ったり忘れてしまった時などに、ぜひお役立てください!
「署名」と「記名」の違い
そもそも、「署名」と「記名」の違いは知っていますか?契約に詳しい人でないと意外と知られていない部分ですので、解説しておきます。
署名とは、本人による直筆で氏名を記入し、契約などの成立の証跡として残すもののことです。一言で言うと「サイン」ですね。
記名とは、あらかじめ印字されていたり、本人以外の人が代筆しているような、単に「氏名を記したもの」です。よって、これだけでは法的効力は発生せず、記名の横や下などそばに捺印を行うことによって初めて意味を成すものとなります。
法律上は「署名」が原則となっており、捺印は必要とされていません。しかし、日本では捺印とセットで「正式」としているところが多く、記名+捺印という形式を採用している企業なども多々あるようです。
そういった意味では、偽造などのリスク対策を考える上で最も安全と言えるのは「署名+捺印」ということになります。ただし、あくまでも法律においては、『署名=記名+捺印』という位置関係にあります。
「割印」「訂正印」「捨印」の意味と方法
◆割印
契約書などが2枚以上に渡っている場合、それらが一体であることを証明するために、見開きにして2つにまたがって捺印することを「割印」と言います。
契約における当事者が複数同士であっても、そのうちの主たる人物が代表で押印すれば良いものとなっています。当然ながら使う印鑑は、署名や記名とセットで捺印した際に使用した印鑑をそのまま使用します。
◆訂正印鑑
契約書などで文章に訂正すべき箇所がある場合、または記入を誤ってしまった場合などは、当事者双方合意の訂正の証跡として、必ず訂正印を押す必要があります。
訂正印に使用するのは署名や記名の際に使用した印鑑と同じものでなければなりません。
◆捨印
委任状などにおいて、訂正する箇所が発生することを事前に予定し、文書上部の空欄に押印しておくものを「捨印」と言います。
訂正することをあらかじめ承認する意思を表明するものとして扱われるため、逆に言えば、捨印を押しておくことで実質的に「どこを訂正しても可」ということになるため、契約書において安易に行わないよう注意しましょう。
まとめ
以上が、覚書を中心とした契約における文書や手続き時の留意点などです。いかがでしたか?
繰り返しお伝えしているように、文書名が「契約書」であろうと「覚書」であろうと法的効力に変わりはないため、作成する際や締結手続きをする際には同等の気持ちで、丁寧に慎重に扱う必要があります。
あなたが後輩に契約締結などについて落とし込みを行う際には、ぜひ、これら正しい知識をしっかりと説明してあげてくださいね!