春は別れの季節です。中でも卒業や転勤での別れは、人生で必ず経験します。慣れ親しんだ学校の友達や、苦楽をともにした職場の仲間との別れは寂しく心細いですが、同時に新たな出会いが待っています。
新たなシーンに向かって旅立つ人を送るときに、なくてはならないものが「はなむけの言葉」です。これは、一般的には「卒業おめでとう、これからも頑張って下さい。」や「○○支店での今後のご活躍を期待しています。」など「送り出すときにかける言葉」です。
では「はなむけ」とは何なのでしょう。言葉をかけるときに花を渡すから、「花を手向けるときの言葉」でしょうか?今回は、旅立つ人に贈りたい「はなむけの言葉」についてお話します。
そもそも、「はなむけ」って何?
「転勤するあの人に、はなむけの言葉をみんなで贈ろう」とみんなに回覧を回そう!と思ったけど、「はなむけ」ってどういう字を書くのでしょう。
「はなむけの言葉」は、「花向けの言葉」ではない!
冒頭でも書きましたが、お別れのときには花束を渡すことが多いため「花を手向けるときの言葉」と思われがちですが、実は花と全く関係がありません。卒業式の式次第に「在校生から卒業生への“花向けの言葉”」などと、書いてしまったら大間違いなのです。
花とは全く関係ないのに、どうして「はなむけ」なんて言うのでしょうか。花とは関係ないなら、鼻でしょうか?華でしょうか?次で「はなむけ」の正体に迫ってみましょう。
「はなむけ」は「“鼻向け”」だった?!
「はなむけ」の“はな”は、意外なことに、「鼻」なんです。字面どおりに書くと「鼻向け」なのですが、鼻を向けるとはどういうことでしょう。きちんと相手に顔を向けて・顔を見て言葉を贈りましょう、という意味でしょうか?
これには、昔の日本の風習が関係しています。昔の旅人は主に馬を使って移動していました。道中の安全を祈って、旅人が乗っていく馬の鼻(顔)を向かう方角へ向けたことから生まれた言葉です。土佐日記にもこの「はなむけ」が書かれていますので、平安時代から「はなむけ」という言葉が使われていたようです。
「はなむけ」を漢字で表すと?
「餞」・「贐」この文字を見たことがあるでしょうか?これらはどちらも「はなむけ」と読みます。この2つには、大きな違いがあります。
「餞」は食偏から成り立ち、「贐」は貝偏から成り立っています。「餞」の字は「少ない」などの意味を持ち、「(淺い(浅い)」「付箋(ふせん・小さな紙)」などで用いられます。つまり「餞」は「ちょっとした」という意味があるのです。
対して「贐」は、お金を表す貝の横に「盡」がついています。これは「尽くす」とも読みます。お金を尽くす、ですから「精一杯のお金」の意味があります。実際の金額はともかくとして、「ちょっとしたものですが」と言って渡すか「精一杯の気持ちです!」と言うかの違いがあります。
つまり贈る側の心意気が違う、ということになります。転勤や卒業のお祝いであれば「お祝いに、ちょっと美味しいものでも食べてね!」=「贐」がふさわしく、結婚式など大いなる門出を祝す場合は、「一世一代の栄華を盛大にお祝いします!」=「贐」がふさわしいのです。
お金を贈らない「送別会」も「はなむけ」の1つです。
「餞」・「贐」のように、「はなむけ」はお金を贈るときだけに使われる言葉ではありません。先にも登場した「土佐日記」には、「(去っていく)藤原トキザネさんは明日船で出発するけど、一応ウマノハナムケ(はなむけの宴=送別会)をやりました!みんな飲みすぎて大騒ぎになりました~」と書かれています。
つまり、送別会も「はなむけ」になるのです。お金が出てこなくても「はなむけ」と呼んでも間違いではないのです。
「はなむけの言葉」を贈っていい人、いけない人
結婚生活の始まりや、新生活の始まりといった“新たな門出を祝う”ときに使われる「はなむけの言葉」ですが、故人のお葬式のときにも「最後のはなむけ」など、「はなむけ」の言葉が用いられることがありますが、これは間違いではありません。
「死んでめでたい!」と直接的にとらえるのではなく、「安らかにあの世へ送り出す」という意味になりますので、故人に対して使っても失礼にはならないのです。
「はなむけの言葉」文例集
はなむけの言葉を贈ろう!と思っても、上手な言葉はなかなか浮かびませんよね。
「座右の銘」のように1つだけ好きな言葉を持っていることも大事ですが、相手に合わせたはなむけの言葉を用意しておくのも大切です!
卒業メッセージ文例(小学生~中学生)
- 「物語はここからはじまるのだ」(漫画家・手塚修虫)
- 「自分の道を歩む人は、誰でも英雄です」(小説家:ヘルマン・ヘッセ)
- 「うしろを振り向く必要はない。あなたの前にはいくらでも道があるのだから」(小説家・魯迅)
- 「あなたにとっての冒険とは、あなたの夢に生きること」(慈善家:オプラ・ウィンフリー)
- 「のろくてもいいじゃないか 新しい雪の上を歩くようなもの ゆっくり歩けば足跡がきれいに残る」(詩人:星野富弘)
中学校を卒業するのは15歳くらいです。「まだ人生は始まったばかり」という格言メッセージがぴったりです。
卒業メッセージ文例(高校生~大学生)
- 「人生に失敗がないと、人生に失敗する」(随筆家:斉藤茂太)
- 「あなたの夢は何か、あなたが目的とするものは何か、それさえしっかり持っているならば、必ずや道は開かれるだろう」(政治指導者:マハトマ・ガンジー)
- 「壁は自分自身だ」(芸術家・岡本太郎)
- 「他人のように上手くやろうと思わないで、自分らしく失敗しなさい」(映画監督:大林宣彦)
- 「成功者になろうとするより、価値のある人間になろうとしなさい」(アインシュタイン)
高校や大学を卒業し、社会へはばたく人たちには「人生観」を交えたメッセージを贈りましょう。高校から大学へ進学する人は、受験戦争に打ち勝ったプロセスがありますので、その苦労を労う一言も添えましょう!
転勤する部下や後輩へ贈る!メッセージ文例
- 「チャレンジして失敗を恐れるよりも、なにもしないことを恐れろ」(ホンダ創始者:本田宗一郎)
- 「まだ若いのだから何度でもやり直せる」(楽天創設者:三木谷浩史)
- 「コツコツと、コツコツと続けること」(ユニクロ社長:柳井正)
- 「失敗こそが、よりよいやり直しを得るための機会になる」(フォード創始者:ヘンリー・フォード)
- 「人間は負けたらおわりなのではない。やめたら終わりなのだ。」(アメリカ大統領:リチャード・ニクソン)
転勤するのは目上の人ばかりではありません。目下の人が転勤する場合は、上司や先輩からの「力強く励ます」メッセージを贈りましょう。どんな仕事内容でもこれらの格言は使えますのでおすすめです。
転勤・退職をされる上司や先生には、名言メッセージよりも「○○○」を贈ろう!
さまざまな名言集をご覧いただきましたが、ここで1つ困ったことがあります。名言や格言は、功績のある人の言葉です。目下の人が、目上の人へのメッセージに使うのってなんだかちょっとヘンですよね?
人生の先輩は、すでにたくさんの格言をご存知です。
名言や格言は、使い方によっては「上から目線」になってしまうため、上司や先生方に送るのは違和感があります。人生の先輩でもある上司に対して指導的な言葉は不向きですし、このような「名言」はすでに知られている可能性が高いです。
では、具体的にどのような「はなむけの言葉」を贈ったらいいでしょうか。
「感謝の気持ち」を言葉にして贈りましょう。
上司や先生にとって、部下や生徒からもらって一番嬉しいものは「感謝の言葉」ではないでしょうか。「あなたの部下(生徒)で本当に良かった」という気持ちを表す言葉こそが、なによりのはなむけの言葉になります。
「自分のしてきた指導は、間違っていなかったのだ」と思っていただけるようなメッセージがふさわしいでしょう。一言メッセージでも、感謝の気持ちを必ず入れておきましょう。部下や生徒たちでメッセージを書いて集めれば、何にも変えがたい「オリジナル感動メッセージ集」の完成です!
お世話になった上司・先生へ贈りたいメッセージ例文
転勤や退職などで旅立つ上司・先生に贈りたいメッセージの例文です。
①支店長(先生)、B支店(学校)への(ご栄転大変おめでとうございます)。
②私はここぞというときに失敗ばかりで、支店長にご迷惑をかけてばかりでした。
このような頼りにならない私を見放さずにいてくださったことに感謝するばかりです。
③(私の経験不足で、大切なC社のコンペに負けて落ち込んでいた時)、支店長がかけてくださった④「己を知り敵を知れば百戦殆うからず」という言葉を、私は絶対に忘れません。
敵のことも自分のことも知らなければ必ず負けてしまう。この言葉は私にとっては大切な宝です。どんな場面でも、この言葉がこれからの私を叱咤してくれるでしょう。
支店長には、数々のご指導をいただき大変お世話になりました。
A支店長の、今後のご健康とご活躍を心からお祈りしています。
⑤本当にありがとうございました。
- 挨拶
- 自分と上司の関係がどのようなものだったか
- 心に残っている上司とのエピソード
- 自分が上司からいちばん影響を受けたこと
- お礼の言葉
この5つの要素は押させておきたいポイントです。
まとめ
はなむけの言葉は、旅立つ人の幸せを願う言葉です。メッセージカードや寄せ書きに「頑張って下さい」という言葉が目立ちます。「頑張って」でも決して悪くないのですが、幸せを願うという意味では違うように思います。日本語には、幸せを祈る表現がとても少ないので、「頑張って」の言葉で全てをまかなってしまいがちなのです。
英語では「Good Luck(幸運を祈る)」や「Keep it up(その調子で頑張って)」、「You can do it(あなたなら出来る)」「Hang in there(諦めるな!)」といったさまざまな「頑張って」があります。どれもこころ温まる「頑張って!」ですよね。いままでの頑張りを讃えた上で「頑張れ!」と言っているからです。
去り行くまでの姿を知っているのは、一緒に時を過ごした人たちだけ。先のことは先に出会う人たちに任せて、これまでの頑張りをしっかりと讃えることが、真実の「はなむけの言葉」なのです。
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