「ご高覧」という言葉をご存知でしょうか?ビジネス文書や、ダイレクトメールなどの添え状などで目にしたことがあるかもしれませんね。どうやら、目上の人や取引先の顧客に対して「見てください」とお願いする時に用いられる表現のようです。
このような場合に「ご高覧ください」を使わず「ご覧ください」を用いると失礼になるのでしょうか?相手によって使い分ける必要があるとしたら、これからは「ご高覧ください」に変えなければなりません。ビジネスに欠かせない文書のマナー、今回は「ご高覧ください」について学びましょう。
「ご高覧ください」はどんな言葉?
ご高覧・・・「覧」という字が含まれているので、”見る”という意味であることは一目瞭然です。見るの尊敬語は「ご覧になる」ですが、それよりももっと強い意味があるのでしょうか?
「ご高覧」はこんな意味を持つ言葉です。
他人を敬ってその人が見ることをいう「高覧」という名詞に、接頭辞「ご」がついたもの。
デジタル大辞泉ではこのように定義されています。相手を高く位置づけていることから「高い」という文字がついているようですね。もう少し砕いて考えると、「高い身分の人にご覧になっていただく」ということになります。
つまり、上司など目上の人やお客様に対して用いるのが正しい使い方です。「見ていただく」<「ご覧いただく」<「ご高覧いただく」となります。自分が見せたいものを、上司や目上の方に見てもらいたいという場面に登場します。ちなみに「ご覧ください」は尊敬語になります。
「ご高覧ください」はどんな風に使う?
それでは「ご高覧ください」の実際の使用方法に入りましょう。取引先に自社の新商品のパンフレットを送る場合、「ご高覧ください」を使います。
また、展覧会で作品を展示するに時に、お客様に対する言葉の「ご高覧」を使います。「ぜひ見てください」という謙虚な気持ちを伝えることが出来ます。
「ご高覧賜りますよう」は二重敬語?
日本語の難しいところですが、間違った使い方の例には「二重敬語」というものがあります。「ご高覧賜りますよう、よろしくお願いいたします」と書いたら間違いでしょうか?
意外なことに、これは二重敬語にはなりません。「見てください」を敬語にすると、「ご覧ください」になりますが、「ご高覧」は敬語ではなく名詞だからです。このことから、「ご高覧賜りますよう」と、「ご高覧」のあとに「賜る」という敬語をつけることは間違いではないのです。
先にも書きましたが「ご高覧」は名詞ですから、単独で使用することができません。「ください」「いただく」「賜りますようお願いいたします」などの言葉と組み合わせて初めて成立するのです。
「ご高覧」を使った実際の例文集
習うより馴れろ、と言いますので、「ご高覧」を実際に使った例文を見てみましょう。 思ったよりも使いやすい言葉であることが分かります。
「ご高覧」は”何を見てもらいたいのか”によって使い分ける
「どうぞ見てやってください」という気持ちを示しますので、目上の人やお客様なら「ご覧下さい」から「ご高覧ください」にすべて置き換えてしまっても良さそうです。使っていいのかな?と疑問に感じる場合は、「見せたい物」の性質に目を向けてみましょう。
社内全体で情報をシェアする時、その情報に対してみんなから意見をもらいたい「みなさんおお知恵を貸してください」という場合では、相手を高く持ち上げる「ご高覧」はしっくりきますが、忘年会などの会場を告知する場合の「ご高覧」は違和感たっぷりになります。
上司や取引先のお客様に対する書き方
「先日、弊社で開催しました説明会の動画をウェブサイトにアップロードいたしました。どうぞご高覧ください。」
見てもらいたい対象物は、書類だけではありません。ホームページへの誘導やさまざまな媒体を「見てもらう」時にも使用することが出来ます。
「今回発表された新商品に対するお客様からの感想をメールにてお送りさせて頂きました。ご高覧ください。」
紹介したいものが、自分の作成したものでない場合でも使用することが出来ます。ビジネスメールなどのメールで送る場合にも使えます。
「時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。先般はご多用の中ご面談の機会を賜り誠にありがとうございました。つきましては資料を送付いたしますのでご高覧くださいますようお願い申し上げます。」
一度顔を合わせている人でも、まだ会ったことがない人に対しても用いることができます。ここでは、一度面談した人に対して書類を送るシーンです。「ご確認ください」を使うよりも、「さらに関係を進めていきたい」というニュアンスが伝わる表現になります。
紹介したものを見てもらった、お礼の言葉にも使えます。
「この度はご高覧頂き、誠にありがとうございました。また次回の機会にも是非お越しください。」
目下の人が目上の人に何かを見てもらいたいとき、それは「感想や評価、意見を聞かせて欲しいとき」が多いです。その場合にはどうしたらいいでしょうか。「ご高覧の上、“ご高評賜れば”幸いです。」という「評価をお願いします」という言葉を加えましょう。「ご」が連続していますがこれも間違いではありません。
”その場に合う使い方”であることが大前提です
話し言葉で用いると「ごこうらんください」と発音しますので、聞き手からすれば文字が持つ意味が伝わりにくいです。「えっ?何て言ったの?」なんて聞き返されてしまっては、敬語を使った意味が薄れてしまいますので、使いすぎも考え物です。話し言葉の場合は、「こちらをご覧になってください」と話すほうがいいでしょう。
携帯電話の設定方法のマニュアルは「○ページをご覧ください」とか「お読み下さい」と記載されています。これはメーカーがユーザーに対して「見てください」「読んでください」と促している文章です。マニュアルなど、質問に対する回答などの意味を持つ文書には「ご高覧ください」は不向きです。
「ご高覧ください」の言い換え方
「ご高覧ください」が相応しくないほどの雲の上の立場の人に「見て欲しい」と頼むことはめったにありませんが、「ご高覧」と同じ意味を持つ別の言い方も知っておきましょう。
天覧:相手が天皇陛下の場合にのみ使用できます。
台覧:皇族が相手の場合にのみ使用できます。
賢覧、貴覧、尊覧、叡覧:ほぼ高覧と同じ使い方と意味ですが、字面的には「堅い表現」になります。相手がどのような立場の人かによって使い分けが必要です。
「ご笑覧ください。」と言った“大したものではございませんが”と大きくへりくだっているものもあります。似たようなものに「ご笑納ください」という言葉がありますよね。展覧会で自分の作品を見てもらう場合には相応しいですが、社運を賭けるような「新商品の紹介」には相応しい言い回しではありません。
「ご高覧」が使われている実際の記事を見てみましょう。
「ご高覧」なんて使っているのを見たことないよ!という人は、この記事を読んでみましょう。ここでは皇族の方に対して「ご高覧」が使われています。
あなたはこのシーン、正しく書けますか?
高円宮妃殿下が、主演俳優陣と一緒に映画を鑑賞されたシーンを伝える記事です。皇族の方ですから、妃殿下の行動一つ一つに対して「尊敬語」を用いる必要があります。
この記事は、来賓が式に出席した場合に引用することが出来ます。記事に出てくる「ご臨席」は式などに直接関係がない「高位の来賓客」に対して使う言葉です。「ご高覧」と一緒にチェックしておきましょう。
「バンクーバーの朝日」高円宮妃殿下ご臨席試写会
戦前のカナダ・バンクーバーに実在した野球チーム”バンクーバー朝日”の活躍を通し、日系移民たちの姿を描いた「バンクーバーの朝日」。12月16日、本作を高円宮妃殿下が、主演の妻夫木聡さん、亀梨和也さん、石井裕也監督と一緒に作品をご高覧になりました。
スポーツへの造詣が深く、日加協会の名誉総裁を務められるなどカナダとの親交も厚い高円宮妃殿下。作品内で当時の野球やバンクーバーの街並みを再現されたことに深く感心されると共に、日系移民の歴史やその背景などをご説明されるなど、妻夫木さんたちとご懇談されました。
「ご臨席・ご説明される・ご懇談される」と共に「ご高覧になる」が用いられていますよね。ここで注目したいのは「ご高覧される」ではなく「ご高覧になる」となっていることです。
他のケースでは、クリエイターの方たちが画集や写真集など、自分の作品の展示会などをツイッターなどSNSで紹介する場合にも「ご高覧」が使われています。「見る」だけではなく「観る」場合にも相応しい言葉遣いになります。(医師を患者が「診る」というケースでは、「ご高診」になります。)
敬語表現を再確認して、頭の整理をしましょう。
毎日何気なく日本語を使って生活していますが、「正しい言い方が出来ているか」とときどき振り返る必要があります。間違った日本語をそのまま使い続けると、それが自分の常識になってしまい違和感を覚えなくなります。
どれだけ年を重ねても、自分の話し言葉に関心を持ち続けることは大切な習慣です。よく耳にする、よく聞く言葉が正しいとは限りません。マナーブックなどを手元に置いて、時おり「言葉の情報」を更新しておきましょう。
尊敬語
相手を立てる時に使われる言葉です。相手に敬意を払い、尊重しているという気持ちを表します。「見る」の場合は「ご覧になる」となります。
謙譲語
尊敬している相手に対して自分がへりくだることで、相手を立てる表現です。
「見る」の場合は「拝見する」となります。
丁寧語
語尾を「です・ます」や「ございます」とした表現です。
「見る」の場合は「見ます」となります。
まとめ
「ご高覧ください」と「ご覧下さい」の使い分けをしなければ、必ず失礼になるというものではありません。しかし「何かをお願いする場合」には「ご高覧」を用いるのが社会人としては相応しい表現方法です。
社内で情報を回覧して確認を促す場合には、「ご確認ください」が相応しく、「ご高覧」を使うと伝える目的の本質が変わってしまいます。使い分けに迷う場合は「見てもらわなければ話が進まない」ような物であれば、「ご高覧」を選べばほぼ間違いないでしょう。
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