日頃、何となく会話の中に使う”おかげさまで”という言葉、あなたはしっかりとその意味を理解して使っていらっしゃるでしょうか?
自分では何となくわかっているつもりなのだけど、人が使っているのを聞いて、時々?と感じることがあるかもしれません。
その理由は、”おかげさまで”という言葉には、様々な意味が込められているからなのです。
最近では、言葉に込められた大切な意味を知らずに、ただ使用している状況が増えてきました。今回は、”おかげさまで”という言葉の意味、そしてビジネスシーン、日常生活での使用法について、ご紹介します。
“おかげさまで”とは?
“おかげ(さま)で”という言葉の意味
①人やものごとから受けた力添え・助け・恩恵、又は神仏などの加護や助けへの感謝や結果を意味する。
- 例:「おかげさまで、入学試験に合格できました」生徒や生徒の母親から家庭教師などへ、直接の感謝の意を込めた言い方。
- 例:「薬のおかげで、すっかりよくなりました」薬の助けで、健康状態が良くなったという、結果を表しています。
- 例:「おかげさまで、息子が入学試験に合格できました」母親が近所の人に対して、神仏などもふくめた助けがあったからこそ、息子が試験に合格できたという意を込めた言い方。
②他の人や物事から受けたよくない影響、又はある事がもたらす結果。
- 例:「おかげさまで、睡眠不足なんですけど……」知り合いから延々と話を聞かされ、眠ることができなかったことを皮肉った言い方。
- 例:「台風のおかげで、農作物に被害がでました」台風がもたらした悪影響で、被害が出たという結果を表しています。
語源由来
この”おかげさまで”のおかげ(御蔭)と言う言葉には、元々、神仏などの目には見えない加護や助けという意味があります。
ですから、”おかげ”に“さま/様”がついているのは、神仏に対する尊敬と敬意を示して、元来の宗教的な意味合いからきていると思われます。
そこから、人から受けた助力・援助・利益・恩恵なども同じ言葉を使って意味するようになりました。
接頭語に「お」が付き、”おかげ”となったのは、室町時代末期頃からで、悪い影響や結果を被った時にでもこの”おかげ”が使われるようになったのは、江戸時代からのことです。
江戸時代と言えば、民衆が熱狂した1つに”お蔭参り/おかげまいり”があげられます。これは、伊勢神宮と密接な関係があり、ある特定の周期に何百万人にも及ぶ規模の人々が伊勢神宮に祭られた神に加護を願って、集団参詣しました。
当時、庶民の移動には、大変厳しい制限があったのですが、お蔭参りだけは特別で、伊勢神宮参詣のお蔭参りの名目で通行手形さえ発行してもらえば、意外に自由に旅が楽しめたそうです。
言い換え
- 相手の支援への感謝を強調し表現する:お陰を持ちまして/お陰をもちまして・お力添えがあってこそ・◯◯様のご援助のもとで・御蔭をもちまして/お蔭を持ちまして など
- 相手の陰ながらの援助に感謝し表現する:後援・ご支援・お陰・お陰様・お引き立て・後ろ盾・応援 など
ビジネスでの使用法
“おかげさまで”という言葉は、敬語です。敬語の使い方というのは、案外難しいもので、ましてや、ビジネスシーンで適切な使い方ができなかったりすると、相手に大変な誤解を招いてしまうこともあります。
それでは、”おかげさまで”という敬語を、社会人として、ビジネスでどのように使えばよいのか見ていきましょう。
ビジネス枕詞とは?
ビジネス枕詞とは、ビジネスシーンにおいて、人に断りたいことや、何かを依頼したい時、又は、異論などを唱えたい時など、やわらかな口調のフレーズを挿入することにより、人と人とのコミュニケーションをスムーズにできる、クッション的な役目を果たしてくれる大変便利な言葉のことです。
その言葉を使用することによって、その場の雰囲気を損なわないようにしたり、相手の感情を刺激することもありませんので、交渉事も驚く程スムーズに進むことがあります。
それでは、知っておくと便利なビジネス枕詞を紹介します。
【感謝・報告・説明を表すビジネス枕詞】
- ◉あいにくですが〜(◯◯はただいま席を外しております)
- ◉誠に恐れ入りますが〜(◯◯様によろしくお伝えください)
- ◉誠に勝手ながら〜(お休みさせていただきます)
- ◉大変申し訳ないのですが〜(◯◯できませんでした)
- ◉大変申し上げにくいのですが〜(◯◯できませんでした)
- ◉ご心配かもしれませんが〜(◯◯ご安心してください)
- ◉お話中、大変恐縮ですが〜(◯◯部長にお客様がお見えになりました)
“おかげさまで”
“おかげさまで”という言葉も、ビジネス枕詞の仲間と言っていいでしょう。
その言葉の中には、”みなさん(上司や同僚など)の指導や支えがあったからこそ、物事がスムーズに運び、無事成功しました”という感謝の意味が込められています。
実際、上司や同僚の指導や助けがなかったとしても、強調性があり、真面目で、仕事に真摯的に取り組む良い人だという好印象を相手に与えることができます。
上司や同僚が同席していない場での会話であったとしても、さりげなく”おかげさまで”を使いこなせる人物には、相手も好感を持ち、ぜひこの人と一緒に仕事がしてみたい、この人に協力してみたいと思ってしまうのです。
ビジネス会話
それでは、ビジネス会話での例をとって使い方を見てみましょう。
“おかげさまで”を使って
◉ビジネスパートナーに新しい店舗が開店したことを伝えてみましょう。
例1:「おかげさまで、◯◯市に◯◯支店が開店しました」
◉上司に自分の昇進を報告してみましょう。
例2:「おかげさまで、課長に昇進しました」
いかがですか?何かお気づきになられましたか?実は、上記の例には二つとも間違いがあるのです。それでは、正しく言い換えてみましょう!
例1:「おかげさまで、◯◯市に◯◯支店が開店できました」
“おかげさまで”の使い方に、問題はありませんが、後ろの”開店しました”が間違いなのです。このような場合は、”開店できました”と表現します。そうすると、より謙虚さが表現され、かつ正確な敬語となります。
例2:「おかげさまで、課長に昇進できました」
こちらの例の間違いも、基本的に例1と同じです。”おかげさま”は、正しく使用されているのですが、”昇進しました”に問題がありました。昇進を報告している上司から直接的な恩恵や助けを受けておらず、自分の昇進に相手が何の関係がなかったとしても、せっかく”おかげさまで”という言葉を使ったのですから、最後は、それにあった敬語となるように、言葉を選んで下さい。
“お力添え”を使って
“お力添え”とは、”おかげさまで”と同じような意味合いで使われます。
例:「これもひとえに◯◯様のお力添えのおかげでございます」
◉このように表現すると、敬語ではありますが、少し印象がやわらぎます。お世話になった方には、このような言い回し方をするとよいかもしれません。
文章中の”おかげさまで”注意すること
会話の中で使う”おかげさまで”と言う言葉を使う時は、正しい敬語の使い方を忘れさえしなければ、それほど問題はありません。
しかし、文章として書く場合は、少し注意が必要です。
“おかげさまで”の”かげ”は、蔭?それとも陰?
文章中に書く場合、漢字の“蔭”を使うべきか、それとも“陰”を使うべきかで、悩まれる方がいらっしゃると思います。
人によっては、“陰”というのは、なんとなく陰気な感じがするから、“蔭”の方を使うほうがよいと言われる方もいらっしゃいますが、これはどちらを使っても間違いではありません。
ただ言えることは、この二つの漢字に含まれる意味が異なっているということです。二つとも”かげ”という意味では同義なのですが、”蔭”にのみ、”おかげ”・”たすける”・”たすけ”・”かばう”などの意味があるのです。
ですから、”おかげさまで”という言葉を私達が使用する意味合いを考えれば、”蔭”を使うのが正しいのですが、問題は、“蔭”は常用漢字に入っておらず、代わりに“陰”が常用漢字として選ばれたということです。
公用文は、常用漢字を用いて書かれますし、ビジネス文書も公用文ではなく私文書とはいえ、なるべく常用漢字以外は、用いないというのが一般的です。ですから、そういった類いの文書類では、”陰”の字が使われているのです。
しかしながら、堅苦しくない私文書などでしたら、”蔭”の字を使うことに何の問題もありませんので、私達はどちらの漢字も目にすることがあるのです。
全てを平仮名で書く事は避ける
文章で書く時は、”おかげさまで”と全てを平仮名で書くことは、好ましくありません。平仮名だけだと、間延びした感じや、もしかしたらこの人は、適切な漢字を知らないのかしら?という印象を相手に与えてしまうからです。
それでは、”おかげさまで”を一度漢字に変換してみましょう。
●御蔭様で
これは、”で”以外全て漢字です。大変重苦しく、固いイメージを読み手に与えてしまうので、全てを漢字に変換するのではなく、部分的に平仮名を組合わせてみましょう。
●お蔭さまで
●お蔭様で
いかがですか?少し平仮名を組み合わせただけで、読みやすく、そして堅苦しいイメージがやわらいだことと思います。
まとめ
“おかげさまで”という言葉を使うと、ただ丁寧な敬語を使っているだけでなく、自分の身の回りのものへの配慮や感謝の気持ちも表現されて、あなたの印象がグンとアップすることがわかっていただけたことと思います。
特にビジネスシーンにおける”正しい日本語”・”美しい日本語”・”相手に伝える方法”は、ビジネスマン達にとって大きな課題であり、仕事を成功へと導くためのキーポイントと言っても過言ではありません。
ビジネスマンだけでなく、一般の日常生活においても、これらのことは、個人のイメージを左右する基本と言えるでしょう。
時代の移り変わりに伴い、言葉もどんどんと変化していきます。心のこもった素晴らしい日本の言葉を、私達も忘れず使い続けていきたいものです。
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