前もって準備が出来る慶事と違い、急に受けるのが訃報です。訃報を受けて、まずみなさんのに浮かぶのは「香典」ではないでしょうか。
故人が会社の関係者であれば、会社から香典を渡すのか、出席者が個人的に用意するのかで動きが変わります。
訃報を受けてからの香典の準備から弔問マナーまで、今回は「香典の渡し方」についてお話します。
訃報を受けた!まず何をしたらいい?
訃報はさまざまな形で耳に入ります。
会社関係者であれば、上司が社員を集めてその発表をします。時には直接電話で訃報を受ける場合もあります。
「お悔やみ」を述べましょう
電話で訃報を受けたとき、忘れずに「お悔やみの言葉」を述べましょう。弔問したときにお悔やみを述べるからといって電話で何も言わないのは、訃報を伝えてくれた相手に対して失礼になります。お悔やみの言葉は弔問時にも使えますので「弔問マナー」としても覚えておきましょう。
一般的な「お悔やみ」の言葉
- 「この度はご愁傷様でございます。心からお悔やみを申し上げます。」
- 「この度は本当に残念でなりません。謹んでお悔やみを申し上げます。」
突然亡くなった場合には・・・
- 「突然のことで言葉が見つかりません。心からお悔やみを申し上げます」
- 「思いがけないことで信じられない気持ちです。謹んでお悔やみを申し上げます」
お悔やみを述べるときの注意点
このような挨拶をするとき、死因や病状を遺族に尋ねることはマナー違反です。「ご冥福をお祈りいたします」の「冥福」は仏教だけの言葉ですので、宗教が確認出来ない場合は使わないほうが無難です。
この他、「たびたび」「重ね重ね」「次々」など不幸が重なるような「忌み言葉」を使わないように気を配りましょう。
遺族の方に確認すること
- 通夜・告別式の日時と場所
- 喪主の方の名前と故人との続柄
- 宗教
- 供物や供花の受け入れの可否
- 手伝いが必要か
以上を電話の相手に確認しましょう。これらの内容を必要に応じて職場の上司や関連のある部署にすみやかに報告しましょう。(故人との関係性によって通夜・葬儀に参列するか、会社が判断します。)
香典の準備
香典を用意するとき、一番悩むのが外包みに付ける「表書き」ではないでしょうか。
香典袋を買ったとき、あらかじめ印刷された表書きが備えられていますが、どれを選んだらいいのでしょうか?
「香典」とは?
「香典」は死者の霊前に供えるお線香やお花の代わりに、現金を不祝儀用の袋に包むものをいいます。
香典に使う香典袋には、故人の宗教によって決まりがあるため、袋に書く表書きを相手の宗教に合わせなければなりません
香典袋の成り立ち
香典袋は、「外包み」と「内包み」の2つ揃って初めて1つの「香典袋」となります。「外包み」はリボンのような「水引き」が付けられる外側の袋です。
「内包み」はお金を入れる封筒です。この「内包み」には、中に入れた金額などを書きます。ここでは香典袋の外包みの表書きと内包みの書き方についてご説明します。
外包みの「表書き」の選び方
香典袋の表書きは故人の宗教に合わせて書きます。訃報の連絡を受けた時に先方の宗教を確認したと思いますが、それはこの香典袋の表書きをどう書くか、そのための確認だったのです。万が一宗教を聞き忘れた場合には、宗教を問わず使える表書きがあります。それが「御霊前」です。
- 仏式の表書きには「御霊前」の他に「御香典」「御香料」「ご香料」など
- 神式の場合の表書き 「御神前」「御玉串料」「御榊料」
- キリスト教の表書き 「御霊前」「御花料」
ハスの花が印刷されている香典袋がありますが、キリスト教では使えません。キリスト教専用の香典袋は、ハスの花ではなくユリの花や十字架が印刷されます。表書きに「御ミサ料」と書くという説がありますが、これは間違いです。これはキリスト教のミサは「お金によって行われるものではない」からです。
「御仏前」はいつ使う?
「御霊前」ならどこの宗教でも問題なく使えます。しかし、この「御霊前」もいつでも使える表書きではありません。香典袋を買ったとき、「御仏前」と印刷された表書きが入っていませんでしたか? 先に挙げたリストの中に、仏式や神式、キリスト教式のいずれにも「御仏前」は含まれていませんでした。
では、何のために「御仏前」の表書きが入れられているのでしょうか。これは仏教独自の思想が影響しています。一般的に「御仏前」は四十九日の法要が終わった後から使われます。亡くなった日から四十九日目までは故人の魂はこの世にあり、五十日目から「仏」となって極楽浄土に旅立つ、という考え方によるものです。
つまり、四十九日を過ぎた日から「御霊前」は使えない表書きになるということです。もちろん、キリスト教式に四十九日の考え方はありませんので、そもそも「御仏前」を使うシーンはありません。
香典袋は「香典の額に合わせたもの」を用意します
結婚祝いのご祝儀袋の陳列棚を見たことがあれば、すぐにお分かりかと思いますが、ご祝儀袋には大小さまざまなサイズがあります。これは「中に入れる金額に相当するご祝儀袋」なのです。香典袋もこれと同じです。
- 3千~5千円・・・水引きが印刷されたもの
- 1万~3万円・・・水引きが黒白・双銀
- 3万~5万円・・・外包みが高級和紙で作られている、双銀の水引き
- 10万円以上・・・外包みが高級和紙で作られている大きめのサイズのもの
外包みの表書きは「薄墨」で書くのがマナーです。筆ペンには、通常の黒い墨タイプのものと、薄墨色タイプがあります。一般的には、不祝儀袋に使用するのは後者の「薄墨」タイプです。地方によって違いがありますが、薄墨を使う理由に「涙で墨が薄くなった」という意味が含まれることから、薄墨を使うことで間違いはありません。
「外包み」の書き方
故人に合わせた香典袋と用意できたら、次は表書きと香典を出した人の名前を書きましょう。表書きは、前項を参考にいずれの種類にするかを決めて書いてください。
名前を書くのは「香典を出した人」の名前を書きます。個人的に1人の人からの香典の場合は、フルネームをそのまま縦書きに記入します。
会社で香典を贈る場合
右肩に「○○株式会社」と少し小さく会社名を書き、その左側に「代表取締役社長○○」など代表社名を記入します。部署内で贈る場合は「営業部一同」などとします。
「内包み」の書き方
内包みは、表面と裏面に記入します。表面には、中に入れるお金の額を漢数字で書きます。
- 1:壱
- 2:弐
- 3:参
- 5:伍
- 10:拾
- 100:百
- 1000:仟(阡)
- 10000:萬
例えば、5,000円を中に入れる場合は金額の前に「金」をつけて「金伍仟円」となります。裏面の左下(郵便の差出人欄にあたる部分)には住所と氏名を書きます。内包みに薄墨は使わず、黒インクのペンを使いましょう。
香典にも相場があります
香典の金額は、基本的には故人との関係性と、現在の自分の年齢によって相場が変わります。
- 会社の関係者が亡くなった場合、自分が20代であれば5,000円、40代であれば10,000円以上
- 自分の両親の場合、20代では30,000円~100,000円、40代では100,000円以上
- 友人の場合は20代で5,000円、40代では5,000円~10,000円
このように、故人との関係と自分の年代で相場が変わることを覚えておきましょう。新しいお札(新札)は、前から準備していたと思われてしまうので、不祝儀には使いません。新札しかない場合は、一度折り目をつけてから内包みに入れましょう。
参列できないときの香典
自分が入院中であったり、遠方に長期出張などをしていて通夜・葬儀ともに参列できない場合はひとまず弔電をうち、香典は初七日までに現金書留で手紙を添えて送りましょう。葬儀が終わった後に弔問に向かう場合は遺族に許可を得てから訪問しましょう。
香典の渡し方
香典が準備できたら、会場に向かいましょう。香典の渡し方も作法があります。
香典袋のままカバンから出すのではなく、袱紗(ふくさ)に包み、ワンクッション置いて渡しましょう。
香典袋のままで持ち運ばない!
香典は「袱紗」に包んで持参します。香典袋を持参するときは、袱紗に包んで持参するのが正式なマナーです。水引きが折れてしまったり、水滴などで墨が滲んでしまうのを防いでくれる「機能的」な理由もあります。
袱紗は、明るい色味の慶事用と、落ち着いた色味の弔事用があります。どちらでも使えるものもありますが、慶弔兼用のものを使う場合は「包み方」に注意しましょう。
袱紗の包み方
- 袱紗の内側の中心部分に香典等をおきます。上下左右に、三角が1つずつ出来ている形になっていると思います。
- 上下左右の三角部分を内側に折り畳んでいきます。最初に右、次に下、続いて上、最後に左といった順に袱紗をたたんでいきます。慶事と弔事では上下の順番が違います。(慶事は下から上に“返す”ように折ります。)
- 爪を留め糸にかけたら完成です。
香典を渡すタイミング
香典は、通夜か葬儀(告別式)のどちらかに持参します(地域によってはどちらかに限られているケースもあります)。両方参列する場合は、通夜の時点で持参するとよいでしょう。
葬儀場の受付で香典を渡します。同時に芳名帳(芳名カード)への記帳も受付で済ませます。直接遺族に香典を渡すことは出来ません。
受付で香典を渡すときの基本手順
- 右手で袱紗を持ちます(右手に乗せる)。
- 左手で袱紗を開いて、香典をとり出します。
- 香典が相手に対して正面になるように、向きを変えて渡します
黙って渡すのではなく、「この度はご愁傷様でございます」といったお悔やみの言葉を述べましょう。また、他の参列者の方が記帳している間に、袱紗から出して準備するのは美しい姿ではありません。受付担当者の前で袱紗を開きましょう。
「ご焼香」のマナー
受付で香典を渡したら、通夜や葬儀の会場に案内されます。通夜は駆けつけたときによっては、すでにご焼香が始まっている場合もあります。
慌てずにご焼香が出来るように手順を頭に入れておきましょう。
「ご焼香」とは
ご焼香とは、通夜や葬儀で必ず行われるものです。 これは故人に香を焚いて拝むことをいいます。(四十九日を過ぎた法事では仏を拝むことになります。)お墓参りのようにお線香を立てるのではなく、粉状の香を香炉に落として焚き上げます。
これは「心身共に清らかな状態でお参りする」ための作法です。数珠を左手に掛けて、右手で香を落とします。
ご焼香の作法
香を摘む指にも決まりがあります。右手の親指、人差し指と中指で香を摘み、 額の高さまで上げ(これを「おしいただく」といいます)、 指をこすりながら香炉に摘んだ香を落とします。これを1~3回行います。(この回数もそれぞれ違いがあります。前の参列者が何度おしいただいているかを見ておきましょう。)
お焼香は「立礼焼香」「座礼焼香」「回し焼香」の3種類があり、様式によってやり方が異なります。ここでは一般的に行われる「立礼焼香」の例で説明します。
「立礼焼香」の作法
立礼焼香は椅子席の式場で多く利用されるものです。回し焼香は、畳みの上に正座した状態で、焼香台を次の参列者に回していく形式です。
- 自分の順番がきたら焼香台の手前まで進み、遺族と僧侶に一礼をします。
- 体の向きを遺影に向け、遺影を見て合掌と一礼をします。
- 焼香台に進み、焼香をします。
- 再び合掌し、もう一度遺族に一礼して席に戻ります。(席がない場合は、案内された場所に向かいましょう)
ご焼香が終わったら・・・
お通夜では「通夜振る舞い」という軽食が振舞われる場合があります。用意された軽食に一口箸をつけて帰ることが「故人の供養になる」という考え方があります。時間に余裕が無い場合を除いては、出来るだけ振る舞いを受けてから会場を後にしましょう。
「遺族に一声かけてから帰るべきでは」と考える人もいますが、通夜・葬儀の最中の遺族は多忙を極めています。自分が参列したことは、芳名帳で遺族に伝わりますのでこちらから遺族に声を掛けにいくことは遠慮しましょう。当日は直接遺族と会わなくても、失礼にはなりません。
会葬御礼品をもらったら
会葬御礼」とは、通夜や葬儀に参列した方対する返礼品のことです。(「香典返し」は四十九日以降に、香典を包んでくれた方に対する品です。)この返礼品は、香典を出した人数分、受け取って帰るのがマナーです。「どうぞお気遣いなく」と辞退すべきではないでしょう。
なぜなら、喪主からの挨拶状が同封されているからです。挨拶状には参列者へのお礼とともに、故人への思いも綴られています。参列できなくても故人を偲ぶことが出来るよう、代表者はしっかりと人数分を受け取りましょう。
お清めの塩をつけない宗派もあります。
返礼品の中には「お清めの塩」が同封されている場合と、されていない場合があります。死を「穢れ(けがれ)」と捉えることからお清めをするために同封されているのです。この考え方は仏教すべての宗旨宗派に共通する考え方ではありません。「死」を穢れとしない浄土真宗では「お清めの塩」同封されないのです。
まとめ
時間に比較的余裕が持てる葬儀と異なり、お通夜は時間的な余裕がありません。余裕の無い中で、どれだけ「正しい作法」で参列できるかが大切です。通夜は「駆けつける」ものあって、死を待っていたかのような「用意周到ぶり」は考え物だという説もありますが、それは通信手段が現代ほど発達していなかった時代の話です。
今では喪服用の黒いネクタイ、数珠や袱紗、香典袋は緊急時100円均一ショップでも手に入ります。女性用の黒いストッキングもコンビニで買うことが出来ます。昔のような「普段の服装で駆けつけても失礼にはならない」というのは現代では通用しません。
普段から弔事用グッズを簡単に揃えられる時代ですから、会社のロッカーなどに1セット揃えておくのも大人としてもマナーです。
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